「お茶とレアグルーヴ」
小林径インタビュー(続き)


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(前ページからの続き)

●レコード買ってなかったんですか?

そう、買ってなかっていうかお茶にはまって1千万くらい使ったから。厳しい時代だったよ。(笑)


●そんなに買ってたんですか?はぁ・・・・茶にはまったのは突然なんですか?

うん突如はまった。


●なんかきっかけがあるんですか?

もともと現代美術が好きだったから、現代美術がやってるようなことは桃山時代にやってるぞって気付いちゃって、それから桃山時代の日本に相対的にはまってるのね。


●歴史にちょっと疎いんですけど桃山時代ってどんな時代だったんですか?

凄い梠繧セね。日本の黄金時代だね。信長が近代化を推し進めて行く中で、いろいろペルシャだとかいろんな所からかなりいろんな物が入ってきて、なおかつ和風化したんだよ。いままで中国の影響を受けてた部分がちょうどそのころ完全に日本化してくるという両方がぶつかってる時代なんだよ。


●はじめて日本史が面白いって思ったのが大学で日本が鎖国していた時代って世界に先がけて銃の大量生産に成功して世界最大の軍事国家になっていて、文明開化っていうのはもともと技術的な裏付けがあったっていう目から鱗の講義を受けたときでした。

造船技術だって一度遅れたことあったけれども一度信長がコピーしてからは、いきなり世界最大の船作ってしまったり器用なんだよね。今の時代の方が頭悪いんだね。ははははははは。昔に較べてね。


●その時代のアーチストってどんな人が居たんですか?

いろいろ居ますけど、お茶関係だと千利休やね、鶴田織部とか久保田雲休とかね。あとは絵画だったら色々居るじゃないですか。長谷川透谷とか。


●世阿弥とかは?

その辺はもうちょっと前ですね。室町時代ですから。でもちょうど能がもうかなり完璧になってきた時代ですからね。能なんてもうプログレだよね。やばいよあれは。


●能なんてって馬鹿にして薪能とか見に行くとびっくりしますもんね。

意味分かるともっと凄いよね。あの世界観はやばいっすよね。死んでからはじまるじゃないですから。物語が。


●アナーキーですよね。(笑)夢と現(うつつ)がぐちゃぐちゃになってて・・・

そうそう。(笑)シュールレアリズムとか目じゃないよね。


●歌舞伎とは演歌調になっちゃいますけどね。

でも歌舞伎も世話物とか行くとそうだけど荒事とか見たりすると面白いよね。


●どうしようもないものも多いですけどね。

楊貴妃とかね。(笑)


●ロック歌舞伎とかもね(笑)どうしてあんな事しちゃうんだろうってね。
すっかり話がそれちゃいましたけどなんで径さんがお茶にはまってるんだろうって 一度聞いてみたかったんですよ。誰に習ってるんですか?


鎌倉のタンコウカイっていうのの理事長がナガイソウケイっていってその人が鎌倉では一番有名な人が居てその人の弟子のキムラタツノリって人に俺は教わってて、その人はお茶事がよく分かってるひとで、お茶ってのはお茶事だから、お茶事のながれとかが分かんないと本当にお茶習ってる意味がないから。


●それで1千万も(笑)

お茶の世界から見たらギャグだよ。1千万なんて。お茶は三代かけて茶道具集めるって。それも金持ちがってカッコが付くから。


●器から始まって・・・

そうそう大体お茶事やるのに1回に50アイテムくらい要るんだよ。それ全部だって桃山時代で揃えてみなよ。間違いなく3億円は行くよ。


●やっぱその時代の物は違うんですか?

ギャグ。今のは。


●なにが違うんですか?

すべて。土が違う。それから造形力が違う。それから最終的には感性が違う。やっぱり斬られるっていうレベルでやってるのと、今みたいに調子こいて変に女にもてるみたいなのとでは違ってくるよ。ほんとに職人ですよね。命がけの。それと、あれ見なかったかな?世界不思議発見。朝鮮の役で信長が陶工を連れてくんだよ。そのころの朝鮮のトップクラスの陶工を連れてきてるんだよ。まじ、その違いだよ。今の人間国宝なんてぜんぜんギャグだよ。ほんとにギャグだよ。下手すりゃ勝てるかも知れない。俺がやっても。だって見てないから。彼らは。それぐらいレベル低いっすよ。


●そこまで言い切っちゃいますかぁ。

ミュージシャンとDJの関係にすごい似てて、古美術やってる人は結構凄いやついるんだよ。古美術ってのはセレクターじゃないですか。セレクター優位っていうジャンルなんでそれが凄い面白かった。クリエイターよりセレクターの方が優位ってジャンルが音楽以外にもあったんだって。それで余計はまってるのもあるみたいですね。ようするに千利休って自分で作らないですから。長次郎とか朝鮮の陶工に作らせて最後だけくっくっとかやるんですよ。ああこれじゃあシンメトリックだなぁちょっと崩そう。くっとかいって。ディレクターですよね。だけど目があるって、目利きっていうものなのね。


●茶とDJは同じだったって。

そうそう茶とDJなんてまったく同じだよ。もてなしだから。


●お茶とDJね。妙な説得力ありますね。なんか半分煙に巻かれてる気が・・(笑)

それじゃあ、植木等みたいじゃないですか。


●いや茶をやってないからだろうけども、それ聞くとやってみたいすね。

だから比較的女の子がアフタヌーンティーのカップとかでゴダールなんかのポスター貼って部屋を綺麗に片付けて友達呼んでお茶を飲まそうっていうのと似てる世界なんだよ。それが異常になっていってるっていうか、レアグルーヴっていうか、マニアの世界みたいな、ああいうのに命かけちゃったみたいな(笑) しかもあの頃の茶入れ一個って秀吉が城を落として貰えた物じゃないですか。城って今の貨幣価値に直すと高層ビル3個分くらいらしいんだよね。住友ビルとかサンシャインとか。その当時それくらいの価値があったものが今では俺が無理すりゃかえる時代になったのね。その次元で考えれば安いんだよね。


●・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

その次元になれないと駄目だけどね。なんで笑うんだよ。


●端からみるとおかしいっすよ。

そりゃ今の次元で考えりゃその金でベンツ買った方がぜんぜん女に持てるとかさ。茶入れ持ってたからって女ナンパできないからね。


●そこにやっぱりなんかソウルを感じるって事なんですね。

うん、レアグルーヴと変わらない世界っすよ。(笑)レアグルーヴなんて嫌いな奴は嫌いじゃない。小室聞いてる奴にとってみたらレアグルーヴってなんなのって感じじゃない。こんなクソみたいな下手くそなレコードに何万も出すの?みたいな。


●そういう意味ではねぇ。

同じだって。


●でもレアグルーヴって何万も出して使えるのが10曲のうち1曲ですよね(笑)

お茶の方がよっぽど使えるよね。外れないし・・・・あ、偽物ってのがあるか(笑)


●ジャケ買いみたいなのはお茶には無いんですね。

そうだね。あ、でも箱買いってのがあるよ(笑)箱書きがいいと中味もろくに見ないで買っちゃう。似てるねぇ。そういえば。
だから、お作法からいったらつまんないんだよ。クリエイティヴからいったら面白いんだよ。みんな作法からいっちゃうでしょ、女の子の花嫁修業みたいなのから行くから本来女がやる事じゃないから。ありゃ男のもんだから。
要するに藤原定家の「見渡せば花も紅葉もなかりけり 裏の苫屋の秋の夕暮れ」って和歌があるけど、それがお茶の心を要約してるんだよね。要するに苫屋って粗末な馬をつないでおく小屋なんだよ。それを天下を治めたような今で言うような財界人であったり天皇みたいな権力者であったりというような人が無茶苦茶金かけて苫屋を作ってる訳ですよ。無茶苦茶金かけてそんな渋い物作っちゃうっていう・・・地味派手ですよね。



●そういう意味ではレアグルーヴなんですね。

そうね。いつも俺が言ってるけど、今っぽいことを実際は今っぽく見せないでやるっていう。


●なるほど!その辺に径さんのレアグルーヴ感覚ってのがあるわけですね。

そういう意味じゃノーマン・ジェイと全く違うと思うんだよね。この感覚はね。


●あくまでジャパニーズなんすね。

そうすね。まさにジャパニーズ。


●じゃあノーマン・ジェイがこないだ来日した時にその前に回してましたよね。その時は燃えたんですか。負け無いぞこの野郎みたいな(笑)

この野郎とかってのはないよ(笑)いつもノーマン・ジェイは誉めてくれるんで、有り難いことに。いつもすげー誉めてくれるんだよ。だから対抗意識とかってのはないよ。同胞って感じだよね。


●ノーマン・ジェイって来日したときけっこうフリーソウルものをかけててあれって日本向けなの?みたいなのがあったんですけど、、、

いや、だからノーマン・ジェイってフリーソウルですよ。要するにフリーソウルの白人っぽいのを抜いた感じですよ。まぁ、あれはノーマンの方が先にやってたんだけどね。彼が元なんですよ。あれがノーマンのスタイルですよ。 わりとみんながレアグルーヴっぽく思ってるイメージはケブダージとかのなんじゃないかな・・・。だからちょっと変わっちゃってんのね。当時見てた人は分かるんだけど。B級みたいなのをびっちり掛けるみたいなのがイメージだよね。それもちょっと違うなってのがあるよね。 こないだなんかヒップホップ掛けるんですかとかって言われてさ、その当時のレアグルーヴってジャジーBなんかだってヒップホップと一緒に掛けてるんだから。そういうこと言う奴が居るからね。今は。


●未だに居るんですか。っていうか今だからいるのか。そういう風な変なジャンル分けってしたがりますよね。

そうそうジャンル分けってあるね。


●だからムロさんなんて引かれちゃったりしますもんね。Bな人達には。ムロさんて駄目ですっていう若い子。気持ちいいのになぁって思うんですけど。

ちょっと7インチみたいなのって駄目みたいな人居るよね。ブラコン臭くなくちゃいけないみたいなね。教える奴居ないから、世代が変わっちゃって勝手に若い奴の中だけで盛り上がっちゃってやってるから、コモンセンスみたいなのが教科書みたいなコモンみたいなのがベストみたいな。そういう感じだもんね。それでも下手すりゃいい方だよね。


●径さんがDJ始めた頃ってまだ体育会のノリがあったんですか?

俺は体育会じゃないDJ第一号みたいなのだからね。俺の周りではあったんですよね。辰緒君とかはその頃体育会でやってたみたいだね(笑)


●(爆笑)極真ですからね・・・

いまだに、押忍とかいって殴ってるよね腹とか(笑) 俺らの頃からだからね。体育会じゃない感じが出てきたのが。


●でも上下関係がないのがいいのかってっていうのは難しい所だと思いますけど。上下関係なんていらねぇ。センスだみたいなこと言ってる人もいるけど・・・・・。

実際問題、そういうところきっちりしてる奴の方が伸びてる部分ってあるよね。そうじゃなくて伸びてる奴もいるけどそれは本当に才能ある奴だよね。滅多にいないけどね。態度悪くても選曲最高って奴は。


●います?径さんの周りで。

体育会じゃないって意味では竹村とか。人間関係上手いとはどう考えても思えなかったからね。


●見た目からしてそうですよね。で、結局竹村さんは海外で評価されて日本でも評価されるようになったんですよね。

あいつが盛り上げてるの見たことないもん。あいつが有名になってからはそれがリアルなんだって言う奴はいるけどね。そうじゃないときから、俺はやってたから知ってるけど。レアグルーヴとか掛けてたからね。あいつも。


●え”そうなんですか?

レアグルーヴDJでもあったんですよ。彼は。隠してるけどね。


●隠してるんですか?(笑)

なんかイメージあまりにも揃えてるよね。俺に言わせたら。


●京都系の人達ってなんかそういうスタイルってありますよね。 径さんてどこ出身ですか?

群馬県の高崎です。


●その当時あんなレコードって売ってました?

いちおう揃ってたよね。今の方が逆にJ−POPみたいなのばっかりじゃない。


●そういえば昔のレコード屋って変なレコードいっぱい置いてましたよね。地元の小さなレコード屋でクラフトワークとか普通に買えましたよ。YMOなんかブレークする前。そういえば。

そうだね。僕もジャーマンから入っているからね。YMOよりも先にクラフトワーク聞いてるからYMOを馬鹿にしちゃうんだよね。クラフトワークみたいなテクノだよって聞いてYMO聞いてみたらこれフュージョンじゃんって思ったもん(笑)


●そうYMOって最初フュージョンのコーナーに置いてましたよね。だいたい渡辺香津美がギター弾きまくってたりしてたんですからね。

クラフトワーク聞いちゃったらまずいよね。あれは。未だに結構聞いてるもん。僕のベスト10に入ってるよね。


●あの無限に続くようなループ。ループものの始まりみたいな。

それも未だに気持ちいいじゃん。あのループは。


●それはなんででしょうかね。

それはやっぱりテンションでやろうとしてないからですよね。やっぱあれで生み出した世界だから。


●テンションですか。

グラムとかはやっぱもうちょっとテンションでやってるというか黒人のノリノリのそういうのがあるじゃない。黒人が聞いてももちろん気持ちいいってのがあるけど、やっぱりああいう世界観がやばいみたいな。 渋公のライブとか見たけど最初の。あれがやばかったですね。


●何年ですか?

82年。コンピューターワールド出した直後。


●僕はあのときの模様収録したラジオを未だに聞きますからね。

最初がナンバーズからはじまったよね。あれがまたかっこよかったんですよね。


●そうそう、僕はあのロボットがほしくてほしくて。。

それで電卓の時に下りてきてやらせたじゃん。


●ああああ、ゲームパッドみたいな特注のシーケンサーみたいなのを持ってね。今見るとださださなんですけどね。 でもバンバータがクラフトワークをファンクだって言ってたと知ったときにびっくりしましたからね。

だからファンクっぽいのが好きだったんだろうね。昔から。


●最後にぜんぜん関係ないですけど好みの女性を聞いてみたりしたいんですが。

女のタイプは簡単ですよ。アヌーク・エーメです。それ橋本君と二見君と3人でブルーノートのメローグルーヴやビターグルーヴとかのコンピやったときの対談で二見君がアンナ・カリーナで橋本君がジーン・セバークで僕がアヌーク・エーメだったの。


●あのコンピレーションいい選曲でしたよねぇ。

あれいいコンピレーションだったんだけど売れなくてすぐ廃盤になっちゃって。だって、俺が持ってないんだよ。人に上げちゃったら廃盤になっちゃって。あれ自分でも気にいってるんだけどね。


●いや無茶苦茶いいですよあのコンピ。いまだにヘヴィーに聞いてますよ。デューク・ピアソンがフローラ・プリムに歌わせたストーミーとか。あのころ結構コンピレーションやってましたよね。

そうそうダンシング・ジャズシリーズとかね。


●そうそうそうそう。あのビターな選曲良かったですね。あれの発売の時の雑誌のインタビューが僕は忘れられないですよ。この選曲で僕のレアグルーヴ感覚を感じとって下さいってみたいな気障なこと径さん言ってて・・・・(笑)きゃ〜〜〜かっこいいなぁって。そのあと、事ある毎にその言い回し真似て、この辺で僕の感覚感じとって下さいみたいな(笑)

この辺で僕のチンポ感覚感じとって下さいなんて使ってるんじゃないのか(大爆笑)


●今日はとにかくマスとコアって部分が聞きたかったんです。

それ、でも一番大切なところですよね。


●ポップな装いのコアってのが目標なんでよね。イベントやるときにも。

コアっていうのになり切っちゃうと結局はオヤジになるんだよ。オヤジって頑固なんだよ。良い曲ばっかりかけてんだけどオヤジDJって面白くないじゃん。だって確かにいい曲しか掛けてないんだよ。オヤジDJは。だけどそれがどうしたのって。あるじゃん。


●誰のこといってるんですか?(爆笑)

いやいや、誰っていうか・・・勝手に想像するなよ(笑) だからその間にいないと駄目なんだよね。かといってあっちいっちゃったら小室だし。小室ならいいけどね。あそこまでやれば。 コアっていうのは製作やることによってバランス取るって事もあるからね。それこそ竹村とかみたいにね。そうやってバランス取ってるとフロアーで踊らせなくてもいいんだよね。DJオンリーだと難しいね。


●径さんそのへんどうなんですか?DJ志向とプロデューサー志向みたいなのとかって。紋切り型みたいな質問になっちゃいますけど。

どうなのかね。あんまりなんにも考えてないけど・・・


●ルーティンでコンピ出してガンガンやっていくのかと思ってましたよ。あれそれぞれ拡げたら面白いこと出来たと思うんですけど。

やんなくなっちゃたね。きっと面白くなったよね。まぁいろいろ諸事情があって出来なくなっちゃって。


●すごくもったいないなぁって、、、

またこれから色々やることになってますから。


●音源を作るってことですか?

まずはリミックスから始めていって。とりあえず、ジブラのリミックスが決まってるんですよ。それも俺がやるのは山塚アイとかスーパーバタードックやドラゴン・アッシュのやつとかのと一緒なんだよ。大沢くんなんかが作るのがもう一枚あって、俺が参加するのがその面子の方なの。


●ドラゴンアッシュもバタードックもいいっすよね。もちろん山塚さんもね。みんな若いやつですね(笑)いつ発売ですか?

2月20日だったかな。


●もうすぐですね。もう作業始まってるんですね。すごい久々ですね。あとはなんか決まってますか?

フェラのコンピのアナログオンリーの世界発売ってのをやりますね。アナザーサイド・オブ・フェラってタイトルで。


●また出るんですか。フェラの音源。未発表ものばっかり?

でも今度のはアナログオンリーだから掛けられそうなのばっかり。未発表系もあるし、既存の音源もあるし、あとカバーものも入れるかって話してます。


●イベントとかは?

まぁとりあえず、faiを地道にやってあとオルガンとか地方回ってね。


●楽しみにしてます。有り難うございました。




小林径
80年代から活動を続ける国内のクラブシーンの重鎮。レアグルーヴ・マスターと 呼ばれ,世代を超えて多数のDJ・クラバーから絶大な支持を受ける.現在は 青山faiのプロデュース,渋谷Organ barでのレギュラーなど幅広く活躍。