2004/05/09 (日)

涙。

しゅんくん@circulationが教えてくれた記事。
なぜ、メスなのに弥助なのかは謎。


2004.05.09
読売新聞東京朝刊 38頁 1170字 04段
忠犬の衷心 
北アルプスで遭難…主人の死をみとる 
救助隊見て姿消す ふもとのマイカーで「帰り」待っていた

 富山県大山町の北アルプスで五日、男性の遺体が見つかった。そばには男性の飼い犬が。救助隊が近づくと山へ消え、約十三キロ離れた岐阜県飛騨市神岡町で発見された男性の車のそばに犬の姿があった。遭難から四日間ほど、男性のもとを離れなかったとみられる。救助に携わった人たちは「主人が救助されるのを待ち続けたのでは」と話している。
 亡くなったのは、名古屋市南区明治、会社員鈴木茂さん(51)で、死因は凍死だった。犬は、メスで五歳の甲斐犬(かいけん)「弥助」。鈴木さんは犬と四月二十九日に入山した。黒部ダム南西にある北ノ俣岳(2662メートル)の尾根で五日朝、横浜市の公務員原岳広さん(33)が遺体を見つけた。
 あたりは風雨が強く悪天候が続いていた。富山県警山岳警備隊に通報した原さんは「黒い毛の中型犬が、遺体に付き添うようにしていた。私が手招きすると、ほえて、遺体のそばから離れようとしなかった」と語る。
 近くに、引き裂かれた跡のあるヤッケのズボンが残っていた。原さんには「動かなくなった主人を犬が何とか運ぼうとした」ように思えた。
 山岳警備隊は天候の回復を待って、翌六日に遺体の収容作業を行った。隊員らが到着した時も弥助は遺体のそばにいたが、弥助はそのまま山中に走り去ってしまった。
 鈴木さんの車はこの約五時間後、岐阜県飛騨市神岡町で見つかる。隊員が駆けつけると「犬は車のそばをとぼとぼと歩いていた」といい、そこで保護された。
 県警の調べによると、鈴木さんは二日か三日に死亡したとみられる。付近は三日から強風が吹き荒れた。四日は氷点下まで冷え込んだ。
 遺体収容に協力した太郎平小屋の五十島博文さん(64)は「犬は寒さの中で空腹に耐えながら救助を待ち、険しい山道を駆けて、主人が戻って来ると信じて車に向かった。犬と人間のつながりのすごさを感じた」と話している。
 家族の話によると、弥助は鈴木さんが約三年前から飼い始めた。「やっちゃん」と呼ばれてかわいがられた。
 大学生の長女飛鳥さん(21)は「父は『自分の娘』と口癖のように言っていました。山が好きで、冬は狩猟に出掛けるなど、月に二回は一緒に山に行っていた」と、弥助がうらやましくも思えた。弥助は六日夜、大沢野署で家族に渡された。その時、家族もこれまで聞いたことがないような甲高い声で鳴いた。
 鈴木さんの通夜は八日、営まれた。いつものように庭にいる弥助。飛鳥さんは「父の部屋の窓をじっと見つめるように座っています」と話した。
 
 〈甲斐犬〉
 体高は四十五―五十センチほどの中型の日本犬。山梨県原産。一人の飼い主に忠誠を尽くす性格から、狩猟犬や番犬に向くとされる。一九三四年に国の天然記念物に指定された。

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